BROTHER`S STEP3(終章)
「幸、まだ入ってんのか。のぼせるぞ」
「!もうすぐ上がるでござるよっ」
政宗が退院し、彼と共に幸村は以前二人で暮らしていたマンションに戻ってきた。
病院で幸村は政宗に、彼にとって自分がどれだけ大切な存在かを説かれた後。弟として以上に好意を持っている事を初めて伝えられ。キスをされた。
病院でそれ以上の事は出来ず、その場はそれで終わったのだが。
「マンションに帰ったら、幸を抱きてえ。……この前みたいに無理矢理にじゃなく、な」
政宗のあけすけな物言いに、返事が出来ず頬を真っ赤に染めて俯いた幸村だが。幸村自身もそれは望んでいた。
そして今、政宗に抱かれる為に幸村は体を清めている。
普段は兄弟として風呂も一緒に入っていたが、今日は幸村が頼んで別にしてもらったのだ。一緒に入ってしまったら心の準備ができない、と。
政宗は既にシャワーを終え、幸村がバスルームから出て来るのを待っていて。
緊張の余り長風呂をしてしまった幸村の様子を、彼は窺いに来たようだった。
政宗の気配が少し遠のくのを感じ、ほっと息を吐く。
(確かに、そろそろ上がらねばふやけてしまうな……)
備え付けられている姿見で、自身の姿を見て。綺麗に洗えているのを確認してから、幸村は脱衣所に向かう。
そこで。
(……裸のまま行った方が良いのか?いやでもそれは恥ずかしい気が……)
「上がったのか」
「!!」
悩んでいるとドアが開いて、政宗が入って来た。どうやら脱衣所の前で待っていたようだ。そして。
「ひゃっ」
裸のままだった幸村の体を抱えてしまう。政宗の方は、上半身は露わなものの、下はパジャマのズボンを身に着けている。
「あにうえっ」
自分だけが完全に裸のまま、政宗に抱えられているのが恥ずかしくて思わず声を上げるが。
政宗が幸村の声を気にする様子はなく。
「っ」
政宗の部屋のベッドに、あの日とは違い、優しくそっと落とされた。
仰向けで、政宗に全部を晒す格好になってしまい、彼の視線から逃げるように身を縮めようとした幸村だが。
「…んっ」
それは政宗から与えられたキスによって、阻まれた。軽い口付けを数回落とされた後、舌を絡める深いものに変わる。
「はぁ…ぁ!」
「幸、もう勃ってる」
「あ、兄上のキスが巧過ぎるせいでござるっ」
キスから与えられた快感に緩く立ち上がってしまった、まだ大人になり切っていない幼さを感じさせる淡い色の、自身の先端を指で軽くなぞられ。ぴくんと体を跳ねさせ、赤くなった頬を少し膨らませて政宗が悪いと滲ませて呟く。暗に彼が経験豊富な事に嫉妬してから出た言葉だったが。政宗はそれに「下手より巧い方が良いだろ」と笑みを返すだけだった。
「それより幸、その呼び方何とかならねえのか」
「ふえ?」
「普段は周りの詮索がうるさいだろうから、今まで通り『兄上』で良いが、こんな状況で二人っきりの時位、別の呼び方してくれても良いんだろ」
(名前を呼べ、って事でござるか)
前世で何度も口にした彼の名前。今世でも心の中では常に呼んでいた。けれど。兄上という呼び方にすっかり慣れてしまった今。いざ本人を前にしてその名を呼ぼうとすると、中々声にならない。けれど政宗が呼ぶのを待っている気配を感じ。暫くの沈黙の後漸く。
「……まさむねどの」
と消え入りそうな声で名を呼んだ。
「呼び捨てでいいんだがな……まあいい」
「あっ」
政宗が、中断していた行為を再開する。覆い被さって来た彼の唇が、幸村の頬から首筋を辿り。胸の尖りを舌で舐められた。最初はただくすぐったかっただけだったが。
「…ひ、ぁんっ!」
ちゅ、と音を立てて吸われ、舐め回され、軽く歯を立てられて。また逆の尖りは指で摘まれ、揉まれて。幸村の唇から熱を持った喘ぎが零れ始める。
「幸は敏感だな。こっちは触ってないのに、もうこんなになって」
「あっやあ!見ないで下されえ」
散々胸を嬲った後に、いったん体を少し離した政宗が、幸村の足の付け根。その中心に視線を送る。
先程まで緩やかに立ち上がっているだけだったそこは、今はみっともないほどの先走りを零しながら、解放を待ち望み、熱を持って震えていた。
「いやあ」
恥ずかしいその場所を見ていられたくなくて、足を閉じようとするが。足の間には政宗の体があって。彼の腰に足を絡めるような体制になってしまう。
「これじゃ嫌どころか強請ってるみたいだぞ」
「うぅ、兄上は意地悪でござるっ」
「幸、名前。それにそんなCUTEな顔で睨まれても煽られるだけだ。……一回イっとけ」
「ぁひ!…で、でちゃっ…あぁー!」
羞恥で目尻に涙を溜めながら、政宗を睨むもそんな風に返されてしまい。先走りを零す中心を手で激しく揉み扱かれて。勢いよく白濁を吐き出してしまった。
「あ…」
政宗の精悍な体、その腹や胸に。幸村の精が少し飛び散っている。それが妙に気恥ずかしい。政宗はベッド横のサイドテーブルに置いてあるティッシュペーパーを取り、自分の体を手早く拭いた後。また新たに数枚手に取ってから。
「!」
吐精したばかりの幸村の中心。濡れたその場所を拭き取るようにティッシュを被せた上から手を動かした。
「や、まだ触らないで下されっ……ぁあ…!」
感じやすくなっているその場所を刺激されて。先程のような勢いはないが、幸村はティッシュに包まれた政宗の手に2度目の熱を放出してしまい。連続で与えられた刺激に、くたりと脱力してベッドに沈んだ。
「っ」
ローションを絡めた政宗の指が、幸村の最奥。狭いその入口の淵をゆるゆると刺激している。腰の下に枕を置かれ、足を大きく開かされ、政宗に向かって普段は秘められているその場所を晒している恥ずかしい体勢だが。2連続の射精で力の入らない幸村に抵抗する術はない。
政宗に知識がないとは思えないから、先程の行為はわざと、だろう。恐らく幸村に抵抗をさせない為と、痛みを出来るだけ感じさせないようにする為の。
「くう」
入口を刺激していた政宗の指が1本、ゆっくりとだが中に侵入してきて、幸村の口からくぐもった声が漏れる。
「幸、痛いか?」
気遣いを滲ませた政宗の問いに、首を横に振る。ローションで充分に濡らされ、時間をかけて慣らされたお蔭か、痛みは殆どない。声を出してしまったのは、異物感故だ。その幸村の態度に、政宗は安心した様に息を吐き。ローションを足しながら、更に指を増やし、幸村の中を傷付けないよう慎重に、掻き混ぜて行く。
くちゅ、ぬぶ。
「あ、あ」
自身の下肢から酷く淫靡な濡れた音が響き、目を伏せる。政宗の指を3本も受け入れた幸村の最奥。固く閉ざされていたその場所は、すっかりと解け切っていて。しかも最も敏感な場所を探し当てられて、そこを刺激され続けてしまったから。幸村の中心はまた勃ち上がってしまっていた。
「……もう大丈夫そうだな」
ちゅぷと音を立てて、政宗が指を引き抜きパジャマの下を寛がせて自身を取り出す。
「ぅあ…!」
足を肩に抱えられ。既に大きく硬くなっている政宗自身を解け切った最奥の入り口に擦り付けられて。その熱さに幸村が身じろぐ。
「痛かったら言えよ、幸」
「――っ!!」
指より遥かに大きな質量を持つ政宗のものを突き入れられて、息が詰まり。流石に全くの無痛ではない。けれど。
「あぁ…!」
敏感な場所を突かれて。痛みだけではなく確かな快感も伴って来る。それは表情から政宗にも伝わったようで。
「ゆき」
愛しそうに幸村の頬と唇に口付けを落とした後。
腰を揺さぶる速度を速めた。
「あぁ、ひぅっ…」
ズプズプと淫らな音を立てながら、政宗の雄が幸村の中を出入りしている。
大好きな人と繋がっている。その事実が幸村の心を満たしていく。
以前強引に抱かれた時も、心には密かな満足感を感じていた。しかし身だけでなく心も結ばれた今は。
あの時とは比べ物にならない幸福感がある。
けれどふと。
今まで政宗と付き合った女性たちもこんな気持ちを感じたのだろうかと思い、また同時に沢山の女性の相手をしてきた政宗が、固い男の体しかもたない自分だけで満足するはずないだろうなと考えて、少し切なくなった。
「幸、どうした?」
幸村の表情を敏感に感じ取ったらしい政宗が、動きを止めて覗き込んで来る。
(……これ位は言っても許されるであろうか)
「あにう……政宗殿」
「何だ?」
「……これからは出来るだけ、某以外の方は抱かないで下され……」
政宗の首筋に抱き付きながら呟く。すると。
「!?ぁあああ!」
繋がったまま腰を抱え上げられて。半身を起こしベッドの上に座る姿勢になった政宗の上に乗った状態。所謂対面座位にさせられ。自分の体重で中の政宗自身を刺す様な深さで受け入れる状態になってしまい、幸村の口から悲鳴に近い嬌声が響いた。
「まるで俺が浮気するの決定してるような言い方だな?幸」
「ぁ、ちがっ」
抜けるギリギリまで腰を抱え上げられ、落とされると感じて政宗の肩にしがみ付き、慌てて言葉を紡ぐ。
「兄上は女性経験が豊富でござるから、男の某の体などでは満足できぬのではと思っただけでござるっ」
「……ゆき」
幸村の言葉は政宗にとって酷く意外なものだったようだ。隻眼が見開かれている。
「ぁああ」
激しく落とされはしなかったものの、再び中を抉られ声を上げる。そんな幸村を政宗は優しい、しかし少し呆れも入ったような顔で見つめてこう囁いた。
「馬鹿だな、幸。俺が付き合った女なんて皆、幸の代わりだ。『可愛い弟』の幸に手を出す訳には行かなかったからな」
(女性側からしたら、政宗殿は『酷い男』なんでござろうな……けれど)
幸村としては政宗のその言葉が嬉しかった。
「だから、もう女なんて必要ねえ。一番欲しかった幸を手に入れたんだから。つまらねえ事考えてないでこっちに集中しろ」
「ぁあ、ん!」
再び腰を掴まれ揺さぶられる。
「もう、無…理でござるぅ」
あの後何度達したか分からない。下肢は幸村自身と政宗の吐き出したものでべとべとになっていて。幸村自身から零れる滴は透明に近い色になっていた。
「ん、ラスト、だ。ゆき」
「ふっ、んん!」
唇を重ねられ、奥を突き上げられて。最奥に政宗の熱が広がったのを感じながら、幸村の意識は薄れていく。
その中で政宗の声が聞こえ、その内容を認識した瞬間、幸せな笑みを浮かべる。
以前も一度聞いた事のあるそれ。けれど今はその時よりもっと幸村の心に響いた。
「俺にとって幸以上に大事なものなんてねえ」
だからもう、俺から離れるとか考えるなよ、幸。