政宗の従者幸村 5

「っ」
 休憩を終え、馬の元までは何とか歩いて来れたのだが。馬に乗るには足に力が入らない。一度吐き出したとはいえ、政宗の指によって弄られた奥は未だに小さくひくついているままだ。
 どうすれば、と幸村が動きを止め悩んでいると。
「!!」
 既に愛馬に跨っていた政宗が幸村の手を掴んで引き上げ。政宗の前に横向きに座らされてしまった。
「どうせ自分で乗れそうにねえんだろ、大人しくしときな」
 下りようとした所にそう声を掛けられ、主に余計な手間を増やすよりはと考えて従う。
 政宗が馬を走らせ始めると、幸村が乗っていた馬もすぐ後ろに着いて来て。その様子に賢い馬だと感心すると同時に安堵の息を吐いた。賜った馬を置き去りにしてしまうような真似は避けたいと思っていたから。

「ん、はぁっ」
 あの後もう一か所、ごく短時間の視察を終えた政宗は城には戻らず。幸村を伴い近くの宿へと身を寄せた。それは未だに政宗によって与えられた熱を燻らせている幸村の為でもあったのだろう。
 ふらつく幸村の腰を支えるようにして抱え部屋に入った政宗が、後ろ手で扉を閉める。そしてその手が倒れ込んだ幸村の着物の裾を捲り上げた。
 四つん這いにされ、恥ずかしい場所を晒されても、幸村に抵抗する気力はない。むしろ早くそこに政宗の熱量が欲しかった。
「あっ」
 つぷと音を立てて政宗の指が幸村の中に侵入する。先程既に弄られ柔らかくなっていた内部は抵抗がない所か、むしろ歓迎するように指を飲み込んだ。中心も先端からとろとろと雫を洩らしながら震えている。
「こんな物欲しそうに咥えるんなら慣らす必要なさそうだな」
「っ」
 背中越しにからかいを含んだ政宗の声が落ちて。恥ずかしさに頬を紅くしながら幸村はきゅうと目を瞑る。中から指を引き抜いた政宗の手が腰に添えられ。
「ぁあーっ」
 背後からずん!と硬く大きなものに内部を貫かれた瞬間。幸村は先端から白濁を飛び散らせた。
「相変わらず敏感な体だな」
「あ、ひゃうっ」
 硬度を保ったままの政宗の雄に中を蹂躙され、与えられる刺激に幸村の唇から喘ぎが洩れ、中心も再び立ち上がる。
「ふ、ぁああ」
 腰を強く引き寄せられ一際強く奥を突かれた瞬間。再びの絶頂を迎え。
「くっ」
 直後に低く掠れた声と共に内部に政宗の熱が広がって。
 幸村はそれを感じながら瞼を下ろした。



「殿!」
「よお、約束通り相手して貰いに来たぜ」
 政宗と出掛けた日から一週間ほど経った頃。城の庭の片隅で槍の素振りを行っていた幸村の元に主が訪れた。
「ここじゃ狭えな。おまけに畑が近えし」
 万が一畑に何かあったら小十郎の雷が落ちるからな、道場に行くか、と告げて踵を返した政宗の背を、幸村も追う。政宗の傍近くに仕える者としては身分が低い幸村は道場を使ったことがなく、主と仕合うのには抵抗があるものの、道場を使えること自体は少し楽しみだった。政宗の意志とあれば誰も文句は言えないだろうから。
「広くて立派な道場でございますな」
 道場にの前に辿り着き、行儀が悪いと思いながらも、初めての場所に視線を巡らすのは止められず、目の前の建物に対して幸村は感嘆の声を洩らす。
「AH?もしかしてここに来るのは初めてか?」
「はい」
「ここは俺の部下ならいつでも自由に使える。これからは遠慮なく使うこったな」
 政宗の言葉に礼を告げながら頷きつつも、自分を余り良く思っていない他の側仕えの者との関係を今より悪化させたくはないから、ここに来るのは多分今日のように主に誘われた時だけだろう。
「得物は木刀で?取ってきまする」
 一礼してから道場の中に入り、愛用の槍を邪魔にならない位置に立て掛けてから。
 さすがに本物の刃を使って手合せする訳ではないだろうと、まずは近侍として政宗の使う武器を用意するしようと視界に入った木刀や棒達を立てかけてある場所へと向かおうとしたが、返答はなく。
「殿?」
 振り返ると素手のまま政宗が軽く構えを取る姿が目に入る。そして直後。
「!!」
 彼の体をばちばちと音を立てながら雷が覆って行くのを認識した瞬間。幸村は反射的に、攻撃する為ではなく自身の体を守る為に。
 殆ど人前では使ったことのない力を発していた。
「っ」
 政宗はすぐに雷の力を収め、幸村も身に纏ったそれを消滅させる。そこに。
「政宗様!」
 小十郎の声が響いた。
「今日は急ぎのは全部済ませてたと思ったが?」
「は、政宗様が珍しくご政務を早く終わらた上でのお楽しみを邪魔してしまうのはこの小十郎、大変不本意ではあるのですが」
 先程届いた文がおそらく返事を急ぐものだと思いましたので。
 小十郎の言葉に政宗が小さく溜息を吐いた後。
「手合せはまた今度だな」
 鍛錬するならそのまま使って良いからなと言い残して歩き出す。
 幸村の横を通り過ぎる際に政宗の唇から小さな低い囁きが落ち。
 その内容を主が去った後に認識して。
「っ」
 かあ、と幸村の頬が赤く染まる。普段は彼の部下から間接的に伝えられていたから、直接の誘いを聞く機会は余り無かった。

『今夜、俺の寝所に来な。あの遠乗り以来呼んでなかったからな。久々に可愛がってやる』



「さっきの、見てたか?」
「は」
「どう思う?」
 幸村の姿が完全に見えなくなった辺りで、政宗が小十郎に尋ねる。皆まで言わずとも質問の意図は通じた様だ。
「……炎の力を使う者は他国の武将を見ればそう珍しいものではありませぬが」
 この奥州では多くありませんな。もっともあの力自体を有する者が稀ですが。
 ……真田はもしかしたらこの国の生まれではなく……。
 今の所本人を見る限り間者ということはなさそうですが、一応気を付けておいた方が宜しいかと。
「ああ」
 小十郎の言葉に頷くが。
 幸村の炎を見た際。その炎が以前刃を交わしたある者が操るそれと同種に感じたことは、従者には伝えなかった。



「殿?某の顔に何か?」
「……何でもねえ」
 夜の寝所。どうやら昼間の出来事が無意識に引っ掛かっていたのか、行為の後幸村の顔を不自然に見つめてしまっていたようだ。
「あの……昼は失礼を」
「AH?別に失礼なんてされてねえがな。あの力はいつから持ってるんだ?」
「……十五になるかならないかの辺りに急に使えるように」
 どうせならば炎ではなく……雷の力の方が。
 幸村の声は消え入りそうなものだったが。政宗の耳にははっきりと聞き取れて。ますます他国からの回し者である可能性は低いなと感じた。
「俺のをここに取り込み続けてたらその内使えるようになるかもな?」
 幸村の夜着の裾を捲りあげ足を大きく開かせて。
「ひゃんっ」
 まだ後始末をしておらず、精に濡れた幸村の尻穴に指を突き入れ掻き回す。
「と、殿っ……ぁ、んああ」
 先程まで政宗の雄を銜え込んでいた柔らかく蕩けた尻肉が、与えられる刺激にまた物欲しげに蠢き出し。その淫らさに政宗の体にも再び熱が点る。
「まあ冗談はさておき。まだ余裕ありそうだな」
 もう少し付き合いな、と告げて自身を手で扱いて硬度を持たせた後。
「ぁあー!」
 幸村の足を肩に抱え上げ、貫く。
 中は濡れた音を立てながら政宗の雄を丁度良い心地良さで締め付けた。
 



「……」
 自分達を陰から見ている人物が居る。幸村を連れ城下を散策していた政宗はそう感じた。しかしその気配はほんの僅かなもので。普通なら、いやかなりの訓練を受けた人間ですら気付かないだろう。現に政宗の半歩後ろを控えめに歩いている幸村に、気付いた様子はない。彼は決して気配に鈍い方ではないし、政宗が気付いたのも、生い立ちから気配に敏感なのに加え、予め小十郎からその存在を聞いていたから、だ。情報を知らなければ政宗にもその存在を感じることは出来なかっただろう。
(目的は何だ?)
 立場的に命を狙われるなら政宗の方が可能性は高いだろうが。神経を尖らせて気配を追うと、政宗というより幸村を見ている気もする。

「……少しここで待っていろ。話をしたい相手がいる。すぐに戻る」
「承知致しました」
 武器を扱う店ならば退屈しないだろうと、短刀や小太刀を軒下に並べている店の前に幸村を残し、政宗は歩を進める。少し歩いてから再び神経を集中させ周囲を確認するが、気配は着いて来ていなかった。
 話をしたい相手がいるというのは嘘ではない。小十郎の親類で城下に住んでいる老夫婦、今は隠居しているが武家の出自、更に年の割に健康な肉体を持ち散策を趣味としている彼らは町の異変にも目ざとく、政宗は定期的に彼らと会って自分の治める城下に異変の兆候がないかを確認しているのだ。彼らに話を聞いた後時間と立場が許すならば自ら現場に向かい自分の目で異変を確認し、必要ならば対策を取るという形を取っている。政宗の都合がつかない時は小十郎や信頼できる部下にその役目を託す。
(信頼できる部下、か)
 店先に置いて来た人物を頭に浮かぶ。
 幸村にもそれなりの役目は与えているつもりだが、まだ伊達家の核となるような任務には関わらせていない。本人は珍しい位の馬鹿正直な若者で、政宗を裏切ることなどないだろうが、彼の出自がいまいち謎なのが気になっている。最初は幸村にかなりの警戒を抱いていた小十郎もその正直で勤勉な本質に触れ、態度を和らげてるものの、その部分で政宗が幸村を深く関わるのは未だ懸念しているようだった。幸村を城に上げる間接的な機会を作ったのは小十郎だったらしいから、その責任もあり、より厳しく考えているのだろう。
「若様」
 庭を箒で掃いていた老婆が政宗に気付き頭を下げる。そこに丁度外に出ていたらしい老婆の夫が帰って来て。政宗は二人から話を聞くべくゆっくりと彼らに歩み寄った。

 政宗が店の前に戻ると、幸村は何やら一か所を見つめて動きを止めていた。視線を辿るとその先に在ったのは、柄に竜の彫り物が施されている短刀だった。竜の目に当たる部分には金色の石がはめ込まれていて、凝った細工に見合って値段も中々のものだ。
「殿」
 幸村は政宗に気付くと、慌てた様子で短刀から視線を引き剥がした。
(……試す為にも、持たせて良いかも、な)
 幸村の本来の武器は槍で、それらは日常には目立ちすぎて持ち込めない。短刀ならば懐に忍ばせて持ち込むことが可能。
 ならば与えて彼の行動を追ってみるのも良いかもしれないと、政宗は先程入手した情報を頭の中で整理しつつ、後日短刀の購入に再びこの店を訪れることを決めていた。
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