政宗の従者幸村 4

「ははう……」
 家のほど近くに在る小川で遊んでいた際、母が通り掛かるのを見て声を上げようとした幸村だが。母の横に小さな人影、自分より少し年上に見える子供の姿に気付き口を噤んだ。
 幸村はその男の子に見覚えはなかったけれど。近所の子供達と違い、彼は何故かどこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
 母の方も近所の子供達に対する親しげな態度とは違い、少し緊張しているように思える。
「小十郎が―」
 男の子が母に向かって口を開き、その一部、ある人物の名前が幸村の耳に届く。
(!)
 その言葉で、今母の隣に居る子供の正体を、幸村は理解した。
 小十郎、というのはこの国の国主の忠臣、片倉小十郎で間違いないだろう。母はたまに彼の畑の世話をしていると聞いていた。片倉様には何度かお会いしたことがあるけれど、まだお殿様、政宗様には一度もお目に掛かったことは無いの、と母が話してくれたのを幸村は覚えている。
 小十郎を呼び捨てに出来る子供。伊達家の子供は二人居たが、一人は母親と共に城を出ているというのも近所の人達の噂話などから知っていて。だから今母の隣に居るのは。
 幼いながらも既に家督を継いで国を治めている伊達家の長子、伊達政宗で間違いないだろう。黒い眼帯のようなもので右目を隠しているのも噂で聞いた彼の特徴に当て嵌まる。
 彼は母と何やら一言二言会話した後。その隻眼、子供にしては随分鋭い印象のその瞳で、畑や田に視線を送っていた。
 その日の少し後。
 幸村が暮らす農村に伊達家からの使いという者達がやって来て。政宗様の指示で、と田を潤す為の水路等を村の男衆と共に整えて行き。
 あの幼い、自分とそう変わらない歳の政宗が既に農民の暮らしに心を砕いているのを知り。
 伊達家の為に、彼の為に尽くしたい、と思うようになったのだった。
 もっともまだ幼いこの身は何もできないだろうから、役に立たないだろうからと。母に頼んで武術を習い、腕が立つと周囲に言われるようになってから。農民の子供では無理だろう、城仕えは叶わないだろうと思いながらも、母に伊達家の殿のお役に立ちたいと伝えると。母はそれを酷く喜んでくれて。更に小十郎を通じて伊達家にとりなしてくれたようで。幸村の望みだった城仕えは意外な程あっさりと叶った。
 幸村が小十郎とはっきりと言葉を交わしたのは、この前の戦が初めてで。おそらく母への信用で城仕えを認めてくれたのだろう。あの日まで小十郎は幸村が誰の子供であるかを認識していなかったようだ。

「特に田畑に問題は無さそうだな」
 一通り村に視線を送った後、小さく呟いた政宗の姿が、幸村が幼い頃に見た彼の姿と重なり。あの彼の隣に、民の為に心を砕く彼の傍に自分は今確かに居るのだと、改めて望みを叶えていることを実感して。幸村は小さく笑みを浮かべた。
「少し待ってな」
 政宗が民家に向かって声を掛けると、中からすぐ人が現れる。初老のその男は、政宗の正体を知っているのだろう。もしかしたら元は伊達家に仕えていたのかもしれない。農民にしてはずいぶん立派な体躯を持つ男は、政宗の姿を見て少し驚いたような表情を見せた後、深々と頭を下げていた。
 何もありませんが中に、という男の言葉を政宗は断ったようだ。
「すぐに発つからな、気持ちだけ受け取っておく。代わりと言っちゃ何だがひとつ頼みが。外の井戸を借りて汗を流してえ」
 政宗の言葉に男は勿論でございます、お好きなだけお使いくださいと笑顔を見せた。更に拭くものを持って参りますと家の中にいったん入り、すぐに手に布を抱えて戻って来て。その布は幸村が受け取った。
「真田、井戸はこの家の裏だ」
 政宗の言葉に頷き、歩き出した彼を追う。家の裏にはしっかりとした造りの井戸があった。
「っ」
 豪快に着物をはだけ肌を晒し出した政宗から思わず目を逸らし俯く。同性の裸など普段は意識しない幸村だが、政宗相手だと、夜寝所で抱かれることの多い相手だと、やはり少し意識してしまう。しかし主が身を洗っているのならばやはり家臣としてぼうっと見ている訳にはいかず。
「御背中を」
「ああ」
 政宗の背を流す為に井戸の水を汲み上げた。井戸の水は冷たかったが、馬を操って汗をかいた体には心地良いだろう。
「洗ってやる」
「えっ」
 一通り主の体を洗い終わり、その鍛えられた背に流れる水滴を拭きあげていた幸村を、政宗が振り返る。思わぬ提案に固まっていると、あっという間に身に着けていた着物を脱がされてしまった。
「……っ」
 体に掛けられる水は気持ちの良いものだが、外で主に体を洗われている事実はやはり恥ずかしく、幸村は頬を紅く染めつつ政宗の行動に耐えた。
「殿、もう充分でござ……ぁ!」
 体がすっきりしたことを政宗に伝えようとした幸村だが。背中から腰を流してくれていた 政宗の手が、足の間、敏感な部分に触れて。
「んんっ」
 思わず声が零れそうになり唇を噛み締める。
(きっと弾みで偶然触れてしまっただけであろう)
 しかし。
「殿?ぁ、ふ、ぁ!」
 幸村の考えに反して政宗の指は幸村の中心に触れ続け。
「ん、くぅ、ぁぁ、ーっ」
 与えられる刺激に耐えなくなった幸村は、抑えた喘ぎを上げながらその場に崩れ落ちた。
「っあ!?…っ」
 政宗の指が幸村の中心、その先端に滲み始めた子種を掬い取った後、今度は尻の狭間に触れる。
「んんう!」
 政宗に尻肉を掴まれ、さらに体勢を崩した幸村は、地面の上に四つん這いになってしまった。
(こ、この様なところ、誰かに見られたら……)
 周囲に人の気配はないが、このままだと自分が声を我慢しきれなくなってしまう可能性が高い。自身の声が大きいという自覚はあり、その声が辺りに響き渡ってしまえば、何事かと村の人々が様子見に出てきかねない。
「ぁ!」
 政宗の指が幸村の中、敏感な部分を抉り。びくびくと下半身が震える。何度も政宗を受け入れた経験のある尻穴は与えられる快感を貪欲に受け取り、ひくついてしまっていた。
「は、ぁ…!!」
 指が引き抜かれ、代わりに熱い塊があてがわれる。
「殿、それだけはっ」
 政宗のものに貫かれてしまえば、もう声は抑えきれないだろう。
 政宗に、主に抱かれるのは嫌ではないけれど、それを他人に見られるのは酷く恥ずかしい。
「ここではいやでござりまする、どうか…」
 振り返り目尻に涙を浮かべながら懇願すると。
「AH、そうだな。真田がオレとの手合わせを了承するなら、ここでは抱かねえ。どうする?」
「!」
 少し意地悪な笑みを唇に乗せた政宗にそんなことを囁かれ。
「…わ、わかりもうした」
 幸村は仕方なく、了承の意を返した。もしかしたら政宗は最初から本気で抱く気はなく、この答えを引き出す為の行動だったのかもしれない。
「ま、どっちにしろこのままじゃお互い動けねえだろうから」
「んぅ!」
 向かい合わせになり、勃ち上がっていたお互いの中心を政宗の手が纏めて掴み扱き上げる。
「ぁ、あ」
 程なくして二人とも熱を吐き出し、その上からまた井戸の水を被り、体を清めた。

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