政宗の従者幸村 1

「政宗様」
「小十郎か、随分てこずったみてえじゃねえか」
「は、中々向こうもしぶとく」
 奥州に攻め入って来た他国の軍、二方向からのそれに自国の戦力を二つに分け、その片方を腹心である小十郎に政宗は任せたのだが。
 政宗側の方は敵をあっさりと退けたのに対して、小十郎の方は彼にしては随分苦戦したようだった。
「今回特に働きに助けられた者が居りまして。政宗様からお言葉と褒美を」
「珍しいな、そんな事言うのは」
「此度の戦で小十郎が率いる軍に死者が出なかったのはその者のお蔭と言って良いかと」
「そりゃたしかに褒美を取らせなきゃなんねえな。で、そいつの名前は?」
と尋ねて返って来た名に。
 政宗は覚えが無かった。
「……真田幸村、知らねえな」
「一応政宗様の御側仕えの一人ですが、城に入ったのは最近で政宗様に直接顔を合わせる機会も少なかったのでしょう。それに戦場では少々暑苦しいほどの熱い男ですが、普段はあまり目立つ存在ではないようで」
 側仕えと言われてもやはり分からない。平素は目立つ存在ではないと小十郎の言葉の通りに、政宗にも印象は残っていないようだ。
「明日、場を設けるか」
 小十郎がわざわざ自分に進言をするほどの活躍をしたらしいその男に、政宗は興味を惹かれていた。

「んなに硬くならなくていい」
 少し離れた位置で自分に向かって平伏する赤み掛かった髪、後ろが一筋だけ長く伸ばされている、を持つ男。一見しただけで緊張しているのが分かる彼に声を掛ける。
「顔を上げな」
 政宗の声に従い、ゆっくりと顔を上げた彼は。まだ幼さを残していた。
(こんな子供にしか見えねえ奴が戦場で小十郎に認められるほどの活躍をしたとは)
 歳は聞いていないが、今十九の政宗よりも若いのは確実だろう。
「今回の戦で活躍は聞いている。褒美を取らせる。欲しいものはあるか?」
 返答は直ぐにあったが、それはとても欲のないもの、だった。
「……これからも、この幸村の力を伊達家の為に揮うのを許して頂ければ。殿の御傍に仕え続ける事をお許しいただきたく」

(んな当たり前のことを褒美として求めて来るとは)
 あの分では自分から本来の褒美となるようなものを求めて来る事はないだろう、と。政宗は自分で褒美を考えて渡そうと決める。
 小十郎から聞いた話だが、幸村は他の政宗の側仕えの者達と違って身分があまり高くなく。それ故にそれなりに名の通った家の出身が多い政宗の他の側近や小姓達の一部から疎まれているようだ。
 だからあのような事を褒美として求めたのでは、とも小十郎は言っていた。

「小十郎、真田、だったか?あいつをオレの寝所に呼べ」
「政宗様が男に興味を示されるとは」
「あいつ結構可愛い顔立ちしてたからな」
 幸村より容姿が整った者は政宗の小姓の中にもいるが。元より男との性交に興味が無かった事も有り、彼らに手を出した事はない。それ故に政宗の言葉は小十郎を驚かせたようだ。
(男を抱きてえなんて今まで思った事なかったが)
 しかしこの前の幸村の、あの緊張した幼い面持を思い返すと。触れてみたい、という欲が政宗の奥に湧き上がって来ていた。
「では準備の指示も出しておきましょう」
「ああ、頼む」

(……遅え、な)
 夜、月が上空にその姿を主張している時刻だが、寝所に幸村が訪れる気配はない。
 下準備に時間が掛かる事は知っているが、それにしても遅過ぎる。
「ん?」
 夜風に乗って、喧騒が僅かに聞こえて来て。こんな時間に何の騒ぎだと気になった政宗は。寝所から抜け出した。
「大人しくせぬか!」
「あぐっ」
(真田の声、だな)
 聞こえた悲鳴のようなそれは、褒美を尋ねた際に聞いた幸村の声に酷似していて。
 声の聞こえたその部屋が、政宗の寝所に訪れる者の身支度を整える場所だというのは知っていたが。何故そこから彼の悲鳴が聞こえるのかと疑問に思った政宗は。
「一体何やってる」
 一言声を掛けた後、部屋に足を踏み入れた。
「……おい、何だこの状況は」
「政宗様!」
「と、殿っ」
 何がどうしてこうなったのか。幸村はまるで罪人のように両手を縛り上げられ天井から吊るされ、着物の裾をたくし上げられ剥き出しになったその尻は棒で打たれたのだろう、腫れあがっていた。
「この体はオレがこれから可愛がるってのに、傷をつけるなよ」
「しかし、この者が暴れて準備が出来ず仕方なく!」
 部屋には香油の入った小振りの壺が倒れ、また香油を塗り込めるための筆も数本散乱している。
 どうやら幸村が香油を塗られるのを嫌がり、今の状況になっているようだった。
「そんなにオレと夜を過ごすのは嫌か?」
 羞恥からか目尻に涙を溜めている幸村に近付きそう尋ねると。
「ち、違いまする!殿がこの身を寝所にお呼びくださったのは光栄にござる。……しかしこんな明るい場所で複数の方の前で、不浄の場所を拓かれるのは嫌でござるぅ。そもそもなぜこのような場所をっ」
「……それで暴れたって訳か」
 普通城に上がる者は衆道についての教育を受けている筈だが。最近城に上がった幸村には、男同士の性交についての詳しい知識はないらしく。政宗に求められる事自体は歓迎しているものの、いきなり尻を拓かれ香油を塗り込められる理由が分からず混乱して暴れたようだった。
 縛られていた手を解いてやり、その体を抱きとめて。
「あのな、男同士ってのは尻穴を使って繋がるんだ。このちいせえ尻穴にオレのが入る。だから準備しねえと壊れちまう可能性がある」
 耳元に言い含めるように囁き掛けた。
「!」
「香油を尻に塗るのはその為だ、分かったな?」
 政宗の説明に元より大きな目を更に見開いた後、幸村は小さくこくんと頷き。漸く納得したようだった。
「分かったならさっさと来い!政宗様をいつまでお待たせする気だ」
 幸村の尻を打ったと思われる棒を持った男、政宗の側に仕える年若い青年が、幸村に向かって怒鳴り。政宗の腕の中の幸村の体がびくんと震えて。
 その反応から、かなり酷く打たれ虐められたようだなと政宗は予想する。側仕えの小姓の中でも特に整った容姿を持つその青年は、政宗の寝所に呼ばれた幸村へ嫉妬を抱いたのかもしれない。それを裏付けるように、彼が幸村へ向ける視線は必要以上に鋭い。
「今日はもう全員下がっていい」
「しかしまだ準備が」
「構わねえ、後はオレが寝所でやる」
 再度下がれ、と告げて。
 政宗は幸村を抱えたまま、寝所へ向かった。

「っ」
 寝床に幸村の体を落とし、中途半端にその身に絡み付いていた着物を脱がす。政宗より幾分細身だが、しなやかな筋肉がついていて。戦場での活躍が納得できる体だった。
(萎えねえ、な)
 確かに男の体で、おなごのように柔らかさは無い。いくら可愛らしい顔立ちをしているとはいえ、その体をしっかりと見て男であることを認識してしまえば、本来男の硬い体に興味はなく、おなごの豊満な体を好む政宗だったから、求める気持ちが萎んでしまうかもしれないとも思っていたが。
 そのような事は無く。
 このしなやかな筋肉を持つ体が、自分の手でどう乱れるのか、と考えると。
 楽しくさえあった。
「ひゃうっ」
 四つん這いにさせた幸村の腰を引き寄せ。腫れあがってしまっている尻たぶに舌を寄せると。驚きを滲ませた声が上がり。今まで行為に慣れた者ばかりを相手にしていた政宗には、その反応が新鮮だ。
「随分手酷くやられたな」
 元より男にしては丸みのある尻のようだが、今は腫れ上がっているせいで更にその大きさを増している。
 腫れた部分を舐め上げながら囁くと。
「そ、某が無知であった故にご迷惑をっ、知っていればあのような真似は……」
 そんな言葉が返って来て。
 幸村はあの青年が嫉妬故に乱暴に扱ったとは思っていないようだった。
「ひっ」
 政宗の手が幸村の尻肉を左右に割り開くと。
 幸村の体が強張り、足が跳ねる。
 先程の言葉でこの部分を慣らさなければというのは知った筈だが、やはり実際に触られるのには抵抗があるのだろう。
 暴れられるのを覚悟しつつ香油を尻の狭間に垂らした政宗だが。
「ぁ、くうん」
 幸村の方は意外にも。自分の手で暴れようとする足を押さえつけるという行動を取った。
 幸村の事をまだ詳しくは知らないが、褒美を尋ねた際の「これからも殿の御傍に」という願いや、先程の「求められるのは光栄」という言葉などからも忠誠心は強そうだというのは感じていて。
 今も、主君に傷を負わせては、という思いから羞恥を押し殺し、体を押さえ付けているのかも知れない。
 香油をたっぷりと垂らした後、指を一本突き入れる。わざと少し乱暴に掻き回しても、幸村は体を震わせながら耐えている。
(……からかいがいがありそうだ)
 政宗の周囲には珍しい種の人間。
 良いおもちゃを見付けた、当分退屈はしなさそうだとばかりに、政宗は唇の端を釣り上げ。
(まあまずはこの何も知らなさそうな体に、快楽を教えてやる、か)
 ただ掻き回していた指を、探るような動きに変化させて行った。

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