思イノ先ニアル想イ
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HAMATORA offline
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ぶつかった人物は所謂メイド服、ロング丈のクラシックな衣装を身に付けていて、おそらくこの学校の生徒で、クラスが喫茶店か何かをやっているのだろうなとレシオは見当を付けた。
金髪に近い茶色の髪を持つ彼女が顔を上げて。その瞳がレシオを映した瞬間大きく見開かれる。
レシオの方も相手に見覚えがある気がして、暫くその顔を見つめた後。
「……バースデイ?」
幼馴染み、探し人の名前を唇が呟いていた。
「良く分かったな、レシオちゃん」
にへ、と目の前の人物が浮かべた笑みは確かにレシオが良く知る幼馴染みのもので。
何故黙って消えたと問い詰めたかったけれど。
「顔色が悪い」
今はまずそれが一番気になって。大丈夫か、と白い頬に手を添える。
「ん、体調が悪い訳じゃねえんだけど、ちょい疲れちまって」
けどレシオちゃんに会ったらなんかホッとしたかも、とぽふと肩口に頭を預けて来る幼馴染みの頭をそっと撫でながら、その体温を感じながら。彼が自分の存在が嫌になって、重荷になって何も言わずに消えたわけではないのだとその態度から伝わって来て。
レシオは心の中で大きく安堵の息を吐いていた。
「―ってことがあってよ〜」
大したことはされてねえんだけど、ちょっと気持ち悪くなっちまって。どうしたらそれが治るか分かんなくて。でもレシオちゃんに触れてたら良くなった気がする。やっぱレシオちゃんの傍って安心する。
昔から誰かを助ける為に行動を起こすのを躊躇わないのがバースデイだった。自分が多少無理をしても。今回もその精神が発揮されていたらしい。
グラウンドの隅に設置されたベンチを見付け二人並んで座る。背もたれはないが、立っているよりはだいぶ楽だろう。バースデイの頭がこつんとレシオの左肩に触れて。レシオはバースデイの背にそっと腕を回した。
肩までの緩くウェーブの掛かったウィッグを付けメイド姿で、普段愛用しているサングラスを掛けていないバースデイは女子にしか見えなくて、先程までの話に出た厄介な客というのも、彼を女の子にしか思っていなかっただろう。ここに来るまでも女装姿のバースデイはちらちらと一般客や学生の視線を集めていた。レシオを彼氏だと思っているのか声を掛けて来るような輩は居なかったけれど。
隣の体温に触れながら思い返す。
彼を、バースデイを守ると決めた日を。
それは出会って暫く経ったまだ幼い頃。彼の家に初めて招かれた時、だった。
「いらっしゃい」
迎えてくれたのは和服の女性。バースデイの手術の時にも居たけれど、声を聞いたのは今日が初めてだった。母親にしては年齢が上のような気がする。
「ばーちゃん」
バースデイが女性をそう呼んで。ああ、やはり祖母なのかとレシオは納得した。じゃああの時一緒に居た男の人はバースデイのお祖父さんなんだな、とも。
あんな大がかりな手術に、何で彼の両親は姿を見せなかったのだろう。
「俺の部屋こっち」
バースデイがレシオの腕を引っ張る。レシオはお邪魔しますと挨拶してから、引き摺られるままに歩き出した。
彼の部屋に辿り着いて、彼の祖母が持って来てくれたジュースとお菓子を頂いた所で。
レシオは疑問に思っていたことを切り出した。
お父さんとお母さんは?と。
「居ない!」
「え?」
既に両親とも亡くなっていると教えられて、聞いたことを少し後悔した。けれどバースデイは気にした様子もなく。
「親居ないし俺病気持ちじゃん?入院してる時間も長かったし」
だから今まで家に呼ぶような友達居なかったからお前が来てくれて嬉しい、と笑う彼の姿に。
僕がずっと傍に居るし、ずっと守る、と決めたのだ。
彼を助けたい、守りたいとその為に今まで努力しながら生きて来た。その気持ちは変わらない。彼がこの身に触れて安心すると言うのなら、自分はやはり彼の傍で、誰よりも近くで彼を守りながら生きて行きたい。だから。
決めた。
黙って学園を去った彼はそれを望んでいないのかもしれないけれど。
彼が自分に再び笑い掛けてくれたあの表情を見た時に、既に半ばレシオの心は決まっていた。
失敗したな〜。
あんな態度を取るべきではなかった。レシオのこれからを考えるならば余計に。あれでは彼に何も告げずに去った意味が無くなってしまう。
しかし幼馴染みの姿を見た瞬間、どうしようもなく安心してしまった自分が居て。それを隠せなかった。
今既に彼の姿は傍に無く、バースデイも校内ではなく寮のベッドの上だ。
学校からここまで来た記憶はない。レシオの温度に触れて今まで感じていた気持ち悪さが消えて行って。その後彼の肩に凭れてうとうとした所までは覚えているけれど。
運んでくれたんだろうな。
多分そのまま寝入ってしまった体を、レシオが誰かに尋ねてここまで運んでくれたのだろう。今日の自分は他の誰かに、レシオ以外に触れられてはきっと目覚めるだろうから。
文化祭、結局回れなかったな。
折角レシオが来ていたというのに。二人で見て回れば良かった。
でも多分きっと。
彼がこれから取る行動を予測する。そしてその予測は多分外れないだろう。幼い頃から彼の取って来た道を知っている。嘘つきの預言者は俺が殺したからとバースデイが宣言した日から、彼がこの身の為に生きて来たのを知っている。今日の彼の態度からもそれは今でも、バースデイが黙って彼の前から去った事実を前にしても変わっていないのだと伝わって来た。だから。
来年の文化祭は二人で見て回れるだろう、とバースデイはその未来を想像しながらベッドに倒れ込んだ。
彼を自分から解放する機会を作ったけれど。彼がそれを望まないのならば、彼の気持ちに甘えても許されるだろう。
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「なあ風呂借りて良い?」
コーヒーを飲み終えたバースデイが見上げつつ尋ねて来る。
「ここにはシャワーしかないぞ」
レシオとしても今日はバースデイに対して自分と同じ欲を持っている相手と同じ部屋で風呂に入って欲しくないから断る理由はなかったが。そう答えつつも、先程までの痕跡が残っていないかと少し不安になった。
……いや、全て洗い流した筈だ。
「ん、じゅーぶん。あ、後着替えも」
先輩が居る部屋に着替えを取りに行く気にはなれないのだろう。自分が取りに行くのも考えたレシオだが、バースデイを怯えさせた相手に対して冷静で居られる自信はなかったから。レシオは自分の服をバースデイへと手渡した。
「……」
水音が狭い部屋に響く。自覚した想いが彼を怯えさせるなら、と封じ込める決意をしたばかりなのに。薄い壁の向こうで彼がシャワーを浴びている事実に鼓動が早くなってしまいそうで。レシオはバースデイから意識を逸らす為に明日提出の課題を済ませてしまおうと、鞄に手を伸ばした。
「!」
その際にベッドの端にグラビア雑誌が置きっぱなしになっていたのが目に入る。普段こういうものに目敏いバースデイが全く気付いた様子がないのを見ると、彼は先輩の告白に余程動揺していたと見える。付箋の付いた部分、その共通点が彼にばれてしまってはまずいと。レシオは慌てて雑誌を鞄に押し込んだ。
やると言われて押し付けられたが、これは明日さっさと返してしまうに限る。
「レシオちゃん〜」
レシオちゃんの服ちょっと大きいわ〜、と不満げにぼやきながらシャワー室から出て来たバースデイに一瞬呼吸が止まる。
本人が言う通り、レシオの服はバースデイには一回り大きく、シャツの袖と裾がかなり余っていて。下も渡していた筈だがこの丈ならば必要ないと判断したのか、シャツの裾からは素足が覗いていた。
「レシオちゃん?」
「っ温まったならもう寝てしまえ」
「へーい」
出来るだけバースデイの方を見ないように、彼の体をベッドに押し込む。
「レシオちゃんも」
ベッドの端に体を寄せたバースデイが自分の隣のスペースをぽんぽんと叩く姿に内心くらくらしながら。
「課題が終わってからな」
と冷たく告げる。勿論終わっても、彼の隣で寝る気なんてなかった。今までなら、自覚する前ならば一緒に寝ただろうけれど。また暫く経って自分の気持ちが落ち着いたならば一緒に、兄弟のように気楽に隣に滑り込むことが出来るかもしれないけれど。今日はどう考えても無理だった。隣に彼の体温を感じながらなんて、眠れない。
「む〜まあいっか。おやすみ」
「ああ」
ぷうと小さく頬を膨らませながらも、課題があるならば仕方ないと思ったのだろう。数度の瞬きの後、バースデイはゆっくりと瞳を閉じる。
精神的に疲れていたのだろう。
程なくしてすうすうと小さな寝息が静かな部屋の中に柔らかく響いた。
床で寝るか……。
課題を終えて部屋を見回し寝床の場所を考える。ソファなどはないから、ベッドの横の床の上に布団を敷くのが一番寝易そうだった。幸い布団だけは一組余分が置かれている。バースデイが起きた際に床で眠る自分を見ると気にするだろうから、念の為明日はいつもより早く起きた方が良いだろう。
「んっ」
ベッドの上のバースデイから小さな声が上がり。布団を出しているせいで起こしてしまったか?と不安になるが。
音をたてないように注意を払ってベッドの傍に近付くと。彼は相変わらず穏やかな寝息を立てていて安心した。
小さく開いた唇に指を伸ばすと。
「んむっ」
「!」
レシオの指をバースデイの唇が咥えた。
指を差し出したのは無意識で。軽く食まれた感触ではっと我に返る。
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「そんなもんうちにあったっけ?」
「……お前の退院が決まった時に」
「レシオちゃんって意外とむっつりだねえ…ひぁ!」
かあと熱くなった頬を誤魔化すように、にやにやと見上げてくるバースデイから視線を逸らし。からかわれた原因である冷たいままのローションを彼の足に垂らす。
粘り気のある液体を手で足の温度に馴染ませてから。
「んっ」
バースデイの体を反転させて、白い尻の狭間、その奥周辺に幾分温くなった液体を解すように擦り付ける。
前回は彼と早く繋がりたいという想いが強過ぎて、中を柔らかく解しただけで繋がろうとしてしまったけれど。今日は彼をここで気持ち良くしてから、この部分で充分に快感を与えてから。繋がるのはその後で、だ。
ローションを手にたっぷりと注ぎ、今度は目の前で揺れる小さな白い尻、その丸みを軽く揉むように落とし。
「んふぁ」
狭い入口を軽く指で左右に開いて、冷たさがなくなった液体を中へと注いだ。
「大丈夫、か?」
ローションに濡れた指を一本、慎重に差し込みながら尋ねる。
「んっ、ちょっと変な感じはすっけど痛みはねーし平気っ」
答えるバースデイの声に痛みを耐えている様子はなく。彼の体が強張っていないのも確認してから、中の指を軽く動かした。
本来このような行為に使う為のものではない器官は狭く、きつく締め付けてくるが、ローションの滑りを借りて中を探る。彼以外が相手なら決して進んで触りたいと思わない場所だが、彼の内部の柔らかい肉が自分の指を食んでいる状況は、レシオの体の奥に点った熱を更に上げる要素にしかならなかった。
「…ふぁ!?」
曲げた指の腹が内襞の一点を掠めた瞬間。バースデイの腰が大きく揺れて、唇から驚きを含んだ喘ぎが漏れ。目的の場所を見つけたと悟る。
男の体の内部に特に感じる場所、前立腺があると知ったのは医者になってから、で。学生だったあの時はまだそれを知らなかった。
「や、そこ変っ…!ぁああ」
触られるのが嫌というより、思わぬ場所からの快感、訳の分からないそれに翻弄されるのが少し怖いのだろう。振り返ったバースデイの瞳は潤み、眉根は下がっていて吐く息は甘く艶めかしさを持っている。一度精を吐き出し萎えていた中心も、直接触れていないにも関わらず勃ち上がりまた雫を零していた。
「んああっ」
汗で張り付いた金色の前髪をそっとかきあげて、露わになった額にちゅ、と安心させるようにキスを落としてから。バースデイの敏感な部分を刺激しつつ内部を探る指を増やす。あの時よりずっと柔らかく溶けた奥は、レシオの指三本を簡単に受け入れた。
「なっ、も、いいんじゃ、ね?」
中、どろどろになってる気がする。
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