彼への悪戯
「レシオちゃん?帰ってたんだ」
シャワーを浴びている間に、同居人は帰宅していたらしい。ざっと体を拭いて浴室から出てきたのバースデイの視界に、居間のソファに座る後ろ姿が映った。
「な〜レシオくん」
背後から彼に近付く。
普段なら生乾き状態のバースデイを認識した瞬間、しっかり体を拭けと眉をひそめる彼の無反応に首を傾げるが。
その理由はすぐに分かった。
(……寝てる)
潔癖症の気のある彼が着替えもせずに静かに寝息を立てている。余程疲れているのだろう。
(まあ、無理もねえか〜)
少し前まで大怪我を負って入院していて、それなのに退院と同時に職場復帰したのだ、この男は。
レシオの怪我は正体不明の男がばら蒔いたウィルスに感染してしまったバースデイの為にワクチンを手に入れようと戦った際のもので、病院に運び込まれた際には死の淵をさ迷っていた。
彼が手に入れたワクチンによって無菌室から解放されたバースデイは彼が目覚めるまでずっと傍に着いていて。
怪我の手術から数日後、漸く目を覚ました幼馴染みに俺を助けるためにお前が死んだら元も子もねえだろうがっ!と怒鳴った後、滲む涙を隠しながらその体に抱き付いたのはつい最近の話だ。
だからレシオが疲れ切っているのはバースデイにも分かっている。分かっているのだが……。
(俺ちゃん、今どーしようもなくしたいんだよねぇ……)
明日はレシオの勤める病院は休みの筈で。だから彼が仕事から帰って来たら誘うつもりだった。シャワーを浴びたのもその為、だ。服もタンクトップ1枚にショートパンツというすぐ脱げる格好だ。
「レシオちゃ〜ん?」
ソファの後ろから抱き付いて耳元で名前を呼んでも、目を覚ます気配はない。
けれどバースデイのしたい、久し振りにレシオに触れたいという気持ちは収まらない。あの事件が起こってから今日まで、そういう意味での触れ合いは一切なかったのだから。
(ん〜、勝手にやらせてもーらおっ)
浮かんだ考えを名案とばかりに頷いて。バースデイは少し性の悪い笑みを浮かべながら、レシオの座るソファの前方へと移動した。
カチャリとベルトを外す硬質な音が部屋に響いても、レシオの瞳は閉じられたままだ。
彼の瞳が自分を映していないことに少し物足りなさを感じつつ、レシオの開いた足の間の床に腰を下ろし。寛げたその部分にバースデイはゆっくりと顔を近付けた。
下着越しに手でゆるゆると揉むと。
「っ」
レシオの唇から零れていた規則正しい寝息が僅かに乱れる。
起きるか?と思ったが、眉根を少し寄せただけで、それ以上の変化はない。
(つまんねえな〜)
もっと反応した姿を見たい、と。下着をずらして直接手で触れる。
(お、流石にさっきより反応ある。赤くなってんのかーわいい)
目覚めはしないものの、頬を赤らめ吐き出す息も乱れて来たレシオの姿に、バースデイの体の奥に息づく熱の温度が上がる。その熱に煽られるままに、緩く勃ち上がり先走りの滲み始めた先端をぱくりと咥えた。
「ん、むっ」
舌で先端をチロチロと舐める。硬度を増していくレシオの雄と表情を交互に見遣りながら、疲れてるのは分かるけどここまでされて起きないのってどーなの、無防備過ぎない?なんて思いつつも。この無防備さは自分
の前だけで発揮されるものだと知っているから。文句は口に出さず、舌に滲む苦味とともに呑み込んだ。
「んんっ」
「……っふ!」
少し強めに吸い上げると、レシオの肩が揺れて息が大きく乱れる。吐息の間に微かに聞こえた低い艶のある喘ぎに、バースデイの最奥がじん、と痺れる。前も既に緩やかにだが勃ち上がっていて。そんな自分の体を内
心笑う。変化させたのは未だに眠り続けているこの男、だけれど。
初めての行為の際には痛さばかりを感じた奥の器官だが、今はもうその部分に触れることで得られる快感を知っている。
本当はレシオの手で触れて欲しいけれど、未だ彼は目を覚ます気配がないから。
身に付けたショートパンツを片手で下着ごと足首までずり下ろし。バースデイはレシオの先走りを指に絡ませて、疼く自分の後ろへと手を伸ばした。
レシオの雄への刺激は続けながら。
流石に躊躇なく奥に指を差し入れるほどまでには慣れていないから、そろとおそるおそる入口をなぞった後。
「く、ぅん!」
意を決して浅くゆっくりと人差し指を挿入する。衝撃で噛んでしまってはまずいから、口に含んでいたレシオのものは一旦解放して。
「は、ぁ…ん」
普段は充分に慣らされて柔らかくなってから中を弄られるが、今日は何も下準備をしていない内部はまだ固く侵入を阻む。けれどレシオの精の滑りを借りて、何とか指を動かす。
確かこの辺り、と自分の感じる場所、レシオが見つけ出した中のポイントへと指を向かわせる。くい、と指の腹でその部分に触れると。
「ーーっ!!」
びり、と全身に痺れるような快感が走った。
「ぁ、あっ…んむっ」
くちくちと尻の奥を指で刺激しながら、再びレシオのものを口に含む。
初めはおそるおそるだった指の動きも、弄ることで与えられる強い快楽を知ってしまえば段々と大胆に、貪欲になり。中からの刺激によって、触れていない前、その先端からも雫がとろりと零れる。
「ん、ふ、んぅ」
張り詰めたレシオの雄から溢れる精や自らの先走りを手先に絡め、バースデイは奥を弄る指を増やして行った。
(あ、起きる)
大きく硬く育ったレシオの雄が後少しで弾けるという所で、彼の瞼が数回瞬き。目覚めを告げる。
「…っ!?」
寝起きでぼんやりと潤んだレシオの左目がバースデイを映した瞬間。彼の顔に困惑の表情が浮かぶ。
そんな幼馴染みの姿を見つめながら、バースデイはレシオの雄の先端を一際強くちゅうと吸い上げた。
直後、レシオの手がバースデイの頭に掛かる。引き剥がしたかったのだろうが、寝起きで力が入らない様子で間に合わず。
「くっ」
バースデイの口内に、レシオの苦味が大量に広がる。
「バ、バースデイッ」
焦ったように詰め寄るレシオにニッと笑い掛けて、ごくんと喉を鳴らして。口の中の苦味を全て呑み込んだ。
「!」
空になった口内を見せ付けるように口を開けて、更に舌でちろと唇の端を拭う。
以前同じ行動を取った時は直後にレシオに吐き出せという言葉と共に洗面所でうがいをさせられ、ムードも何もあったものではなかったが、今回はどうか。
こちらを見つめたまま硬直しているレシオに、バースデイは今度は言葉で畳み掛ける。
「久し振りにしたかったのに、レシオちゃん寝ちゃってて起きねーんだもん」
だから勝手にやらせて貰ってた。なっかなか起きねーからこっちの準備まで済ませちまった。
レシオに腰を突き出す体勢になり。尻肉を左右に割り開き、自ら慣らして柔らかくなった奥を見せ付ける。首を捻って後ろを振り向くと。
自分と同じように欲を滲ませたレシオの視線とかち合って。
「んぁ」
腰を引き寄せられた。
どうやら今日は彼の潔癖症より自分の誘いが勝ったようだと。
バースデイはレシオからは見えない位置で満足気に笑みを浮かべた。
「ん、はぁんっ」
既に蕩けて刺激を求め蠢く肉襞、その入口に、先程精を吐き出したばかりで硬度を失った雄が擦り付けられる。
尻の狭間でレシオの熱が再び硬く育って行くのを感じ、バースデイは大きく甘い息を吐き出した。
「レシオっ、はや、く」
肌に触れるレシオの雄は既に充分な硬度を取り戻していて。早くそれが中に欲しかった。
「っ、後から文句を言うのは許さんからな」
低い呟きにこくこくと頷く。レシオがこんな言葉を漏らす時、それは彼が普段強固に張り巡らせている理性が崩れる前兆。それはレシオを求める今のバースデイには歓迎すべき状況だ。
「ふ、ぁ」
レシオの手がバースデイの腰を抱え直し、体全体をソファの上に引っ張り上げる。両足を戒めるように足首に引っ掛かっていたショートパンツと下着が床に放り投げられた直後。
「ぁあああ」
バースデイはソファに座るレシオの張り詰めた雄の上に体を落とされ、奥まで一気に貫かれた衝撃で高い喘ぎを漏らしながら中心からビュクビュクと精を放っていた。
「んぁっ」
中のレシオの雄はまだ硬度を保ったままで。普段はバースデイを気遣いながら行為を進めるレシオも今日はそんな余裕はないらしい。
「ふ、ぁああ!」
激しく揺さぶられて、敏感な部分を大きく育った雄で擦られて。バースデイの中心も直ぐに滴を零す。
「くっ」
耳元にレシオの掠れた声が響いて。直後。
「あ、あっ」
奥に叩きつけられた熱、体内にそれが広がって行く感触に身を震わせながら。
「ーっ」
バースデイも再びの絶頂を迎えた。
「ぁんっ」
「っ、妙な声を出すな」
「だってよ、そこ触るから、ぁあっ」
「大体お前があんな真似をしなければ!」
「えーだってレシオちゃんもノッたじゃん。ゴム付けるの忘れるくらいにさ。……ひぁ、んっ」
浴室でバースデイの体を綺麗にするために動いていたレシオの指が、内部を少し乱暴に掻き回して。喘ぎと共に腰が跳ねた。
(こりゃまたスイッチ入ったな)
中を弄る指は増やされ、その動きは性感を煽るものに変化している。
「れしおちゃっ…もっ」
バースデイの方ももっと彼が欲しい、まだ足りないという気持ちはあったから。
振り返って喘ぎ交じりに名前を呼ぶと。
「ぁああーっ!」
指が抜かれた直後、背後から貫かれ。蕩けた内襞をレシオの硬い雄が擦る感触、その快楽に、バースデイはびくびくと体を震わせ、中心からとろとろと精を溢れさせた。
「動けねえ」
翌朝。ベッドに重い体を横たえてバースデイがぼそりと呟く。隣にはレシオが寝転んでいる。普段なら彼は既に起きている時間だが流石に今日はまだベッドに居て、その顔は眠たそうに見えた。
「自業自得だ!」
「んーでも久々にレシオちゃんとエッチ出来て満足した〜。レシオちゃんもあんなにノってたんだし、悪くはなかったっしょ?」
「っ」
にへらと笑い掛けると、昨夜の様子を思い出したのか、かあと頬を染めたレシオが視線を逸らし。その様子をバースデイは笑みを深めて見守る。
「なー今日はここでだらだらしようぜ?」
シーツをぽんぽんと叩いて一日ベッドの上で過ごすことを提案すると。
「折角の休日が」
レシオが少し不満げな顔を見せたけれど。
「体を休めるのが休日っしょー。特に昨日激しかったんだからたっぷり休まねーと!」
そんな彼の頭を、ぐい、と胸に抱き寄せ髪を撫でて抗議を封じた。
「……全くお前は……」
文句を言いつつも緩く撫でられる感触が心地良いのだろう。バースデイの腕の中でレシオはゆっくりと瞳を閉じて。やがて規則正しい寝息が聞こえ始め。
腕に触れる彼の温度が心地良く、その暖かさにバースデイも眠気を誘われて、瞼を下ろした。
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